私たちは狂っている 『生命式』

たまの哲学
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「どうして人を殺してはいけないの?」

…子供にそんなことを尋ねられた時、もしもあなたが恐怖、或いは嫌悪感を抱いたならばこの記事を最後まで読んで欲しい。

あなたの中で変えることができない不変の常識を打ち壊す。

そんな一冊をご紹介しよう。

『生命式』……今回紹介させていただく一冊は芥川賞受賞作家「村田沙耶香」さんの短編集だ。

私がこの本から教わったことを一言で表すと『人の生命の本質』である。

あまりに巧みに、かつあまりに不思議な表現で描かれている本書の内容は、読んでもらわない限り、その意味を完全に理解することは難しい。
本ブログ記事では、できるだけわかりやすく解説させていただこうと思うのだが、やはりそれでも完璧に納得することはできないだろう。

しかし私はこの『生命式』という本を「人類が一度は読むべき本」だと考えているために、是非ともこの記事を足掛かりとして使っていただきたい次第だ。

心を壊す12の作品

「生命式」には以下の全12作品が収められた一冊だ。

  • 生命式
  • 素敵な素材
  • 素晴らしい食卓
  • 夏の夜の口付け
  • 二人家族
  • 大きな星の時間
  • ポチ
  • 魔法のからだ
  • かぜのこいびと
  • パズル
  • 街を食べる
  • 孵化

これらの作品を読んだ私が全てに共通していると感じたことは「心を壊す」だ。
※公式の紹介には「脳を揺さぶる」とあるが、私は本書の内容が「揺さぶる」などという生半可な内容ではないと思っている。

どんなに硬い意志であっても、どんなに前向きな思いであっても、後ろ向きな思いであっても、心と名のつく全てに戸惑いを生じさせる文章が、最初のページから最後に至るまで濃密に詰まっている。

「自分の常識は他人の常識ではない」…これは今やありふれた言葉の一つとなっている。
あまりにも一般化してしまったがために、他人を言いくるめる目的で用いようとする者すら出てくる始末。
本当の意味でこの言葉の本質を理解し説明できる者など、そうそういない。

しかしこの『生命式』は、その本質を限りなく完全に近い形で私たちに提供してくれる。
普段私たちが気づかない…いや、気づかないふりをしている真実と共に。

それも「小難しい哲学書」や「成功者の退屈な日記」という形ではなく、『物語として』しかも気軽に読み進められる『短編として』だ。

『生命式』によって心を揺さぶられた人々

『文学史上最も危険な短編集』
本書がそう呼ばれる所以は、人間という生命の本質をあまりに鮮明に描きすぎていることにある。

人間が社会で生きているだけでは絶対に気が付くことができないはずの、疑いを持つという発想すら浮かばないはずの部分を、丁寧に描写しているのだ。

生命式の作者「村上沙耶香」。
コンビニ人間で芥川賞を受賞した経歴もある彼女の作品は、その独特の視点を評価され世界30か国で翻訳されている。

ここで幾つかの著名人とAmazonのレビューを紹介しよう。
特にAmazonのレビューには、非常に興味深い投稿が数多く寄せられていた。

〇自分の体と心を完全に解体することは出来ないけれど、この作品を読むことは、限りなくそれに近い行為だと思う。   作家「西 加奈子」さん
〇強烈で、異様で、生命観あふれる彼女の作品は、恐ろしい真実を見せてくれる。
          フリーマンズ編集長「ジョン・フリーマン」

ここまでは著名人のコメントだ。商業向けのコメントとも言える。
どちらもこの本の異様さを表現しているが、著名人であるがためにどこか気を使っているように思える一文となっている。
では、Amazonレビューを見て行こう。

・新鮮すぎる一作。
・作者の才能が光っている。
・自分がおかしいように思えたけどどうでもよくもなった。
・気持ちが悪い。
人が思考してはいけない一線を越えてしまった。
・恐い。考えたくない。
自分の頭の固さを思い知った。
こんなことは人間が書いたらダメだ。

まったくの引用ではないが、レビューにはこういったことが書かれていた。

…そう。
諸君も気づいただろうが、本作品には必ずしも肯定的な意見ばかりが目立つわけではない。
「気持ちが悪い」「人が思考してはいけない一線を越えている」こういった意見は幾つもあった。
☆5……53%
☆4……22%
☆3……15%
☆2……2%
☆1……8%
評価は悪くないのだが、それはあくまで普段からの読書で他人の思考を受け入れることに慣れている方々の評価であったからだ。
もしも全世界の人々がこの本を読んだ時、星の数は1つが最も多くなるだろう。
特に自分の中に、絶対に信じている何かがあるという人からすれば、冒涜とすら言える内容だとも思う。


「生命式」から得られる恐怖を例えるなら、

「どうして人を殺してはいけないの?」と幼い子供に聞かれた時のような恐怖…だ。

こんな状況になれば「そんなことは考えたらいけません!」…などと怒鳴って遮ってしまう人が大半だろう。
だがこれを懇切丁寧に理論だてて説明している大人がいたら、あなたはどう感じるだろうか?
「恐怖」「怒り」「焦り」…といった感情が瞬時に湧き上がってしまうかもしれない。

それもそのはず、「そもそも発想を持つことそのものが悪だ」という普遍の常識が我々には根付いているからだ。

いくら「常識は人それぞれ」といっても許容できない物が人にはあるだろう?
だがそれはあくまで「自分が許容できない」というだけで、「人の本質としては非常識でも何でもない」ことなのだ。
しかしそれに気づきたくはない。
普段から「考え方は人それぞれ」といっておきながら「それだけは違う」と否定してしまう。否定せずにはいられない。
そんな人間の心を保つために、これまで思考されることのなかった一線。
生命の本質に関する一線を踏み越えた世界が、『生命式』には描かれている。

狂気の世界に生きるあなたへ

正常は発狂の一種

生命式

これは本書に綴らえた一言。

まだ生命式を読んでいないのであれば、この言葉の意味はおそらく分からないだろう。

けれど私は知っている。
私以外の生命式の読者も知っている。

あなた達は狂っていると。
私も、私の家族や友人、赤の他人に至るまで。その全てが狂っている。狂っているのに気づかない。

約束しよう。
この一冊を読めばあなたはあなたの狂気に気づく。
同様にあなたの周囲の人間も狂気に呑まれていることを知るだろう。

『生命式』を読んだ先に、あなたが人に希望を見出すのか、はたまた世界に絶望するのかはわからない。

しかし私は思うのだ。
「真の平和があり得るのだとすれば、それはこの思考を避けては実現できない」と。
人間の狂気を認識し、放棄していた思考を働かせる。
それを一部の人間だけでなく、世界中の人々が考える。
それが平和へと向かう道。

現在、世界では「人種差別」「男女差別」「LGBT」「宗教戦争」「シニアと若者の衝突」など、その他にも無限と言えるほど、考え方の違いによる争いが起きている。
最早これまでのやり方では、これらの問題が平和的に解決することはないだろう。

だがもしも、双方の心に変化を与える何かがあるとすれば、それは『生命式』で表現されている考え方以外にないように思うのだ。

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